今回のテーマは、【設計士と営業サイドの関係性】
設計士とひとくちにいっても幅広いため、不動産会社向けの設計士を中心にお話しします。
設計士と営業サイドの関係性
これは新型コロナの自粛モードに入る前のことですが、仕事関連のお付き合いの食事会やゴルフコンペなどで、不動産デベロッパーやパワービルダーの経営者や営業幹部の方々とお話をする機会がありました。
私が一級建築士で、設計事務所を経営していることをお話しすると、
『自社設計の間取りがいまいち良くない』
『攻めた間取りが出てこない』
『できない。としか言わない』
というように、自社設計士さんに対しての不満や悩みを抱えていらっしゃいました。
設計士の多くは一級・二級建築士の有資格者で、会社経営者や幹部の多くは建築士の資格を持っていないと思います。
そのため、有資格者の設計者が考える間取りが悪いはずがないだろう!と考えるのが一般的です。
では、経営者の方が不満や悩みを抱くのはなぜでしょうか?
私は15年ほど不動産会社の設計として従事し、作る側と売る側の経験をしていたので一つの答えを持っています。
それは、営業サイドと設計士の思考回路に、決定的な違いがあることです。
それぐらいは分かっているわ!という声が聞こえてきそうですが、実際にその違いをイメージだけでなく、掘り下げて考えた方はどれぐらいいらっしゃるでしょうか?
【営業畑と技術畑は合わないものだ】と、旧態依然の考えのまま諦めていませんか?
私も若いころはどっぷり技術畑の人間でしたので、営業サイドとはそりが合わずに言い合いになることもしばしば。
しかし、サラリーマン時代に立場や職位が上がるにつれ、また独立を意識して準備段階に入ったころには、
【営業が売り上げを作る】
【技術が商品を作る】
ことで会社が回っていることに気付き、積極的に営業側の意見や要望を聞くようになりました。
そして、気が付けば自ら【用地仕入】や【販売】などの営業活動をするようになりました。
このような経験を自ら望んで積む設計士は珍しいと思います。
やってみると営業の面白さを発見できるとは思うのですが、一般的な設計士さんに営業経験を積むように指示しても、大半は拒否するか、納得しないまま退職を選ぶかのいずれかになるでしょう。
とはいえ、不動産会社に必要な設計士の資質に【営業気質】は欠かせないものです。
営業気質とまで言わなくとも、営業の要望をすんなりと受け入れて実現できる設計士は、頼りになる設計士として社内で重宝されているでしょう。
逆に言えば、営業への理解がない設計士に対して、経営者や営業幹部が不満に感じていると言えます。
【設計士】と【営業】が上手に結び付いている不動産会社では、こういった不満は少ないです。
設計士と営業を上手に結びつけるには?
冒頭に挙げた
『自社設計の間取りがいまいち良くない』
『攻めた間取りが出てこない』
『できない。としか言わない』
の不満の逆をいけば、解決の道が開けていけます。
間取りがいまいち良くない理由
間取りがいまいち良くないと感じる理由は、間取りを見た人がパッと見て『この家が欲しい!』と感じるかどうかです。
例えば、
- 部屋の広さ
- 動線処理
- 方角とレイアウトの関係性
- 一般的なニーズ
などに問題がある間取りであることが推測されます。
なぜ問題があるのかというと、設計する側が『自分も住みたい家』という住まい手の立場で考えず、『法規関係・構造上などをいかに成立させるか』の義務を果たす作り手の立場で設計しているのが要因のひとつです。
『攻めた間取り』とはどのようなものか?
『攻めた間取り』とは、
- 敷地の法令制限
- 施工実現性の範囲
の中で、目一杯の大きさを確保しようとトライしているかどうかが決め手になります。
チキンレースのようにギリギリまでアクセルを踏むのは勇気がいることで、手前でブレーキをかけてしまいますよね。
同じように間取りでいえば、もっと広い家ができるはずなのに、各種制限に対してブレーキをかけて、安全の範囲内に納めようとしていることが多く、『攻めてない』という評価につながっているのではないでしょうか。
なぜ攻めてないのかというと『攻められない』というのが正確な表現です。
その理由は『もし間違いなどがあったらどうしよう』という恐怖感から、人から【責められる】危険性を回避したいからでしょう。
『できない』と設計士が言う理由
これは多々理由があると思いますが、
- 実現可能かどうかは深く検証すれば判断できるが、日常業務に追われ、与えられた時間では判断できないから
- 営業の要望を【端から無謀なもの】と決めつけ、検討もしない
- 他者からの【自分の常識外の提案】は悪と決めつけている
- 検討が面倒であるから、相手は知らないだろうと高を括り【法規や構造上の問題】だという理由付けをしている
- そもそも【経験値が乏しく】、間取り検討の実力がない
ということが挙げられます。
なぜ『できない』と設計士が言ってしまうのかというと、技術側の意見を論破できるもしくは間取りを考える営業がいないことにつけ、職位の優位性に立ち、拒否が許されてしまう環境だからではないでしょうか。
逆に、私が在籍した不動産会社の経営者の中には、自分で間取りを考える方もいて、違う畑と決めずに努力をしたことには本当に頭の下がる思いでした。
おかげで、協力しながらよい間取りができたと今では振り返っています。
設計士と営業の関係性を良くするために
以上のことから設計士と営業を上手に結びつけるために解決策をまとめると、
- 社内の設計士には、営業を経験させるないし業務を理解する場を設ける(関係性の強化)
- 営業サイドの要望を設計士が取り入れたら、その後の業務において設計士の立場を営業がサポートする(社内相互フォロー)
- 会社として間取りに重要視する【ルール】を明確化する(目的の共有化)
- よい間取りを生み出すまでの時間・期間を保証する(業務量の把握・教育の実施)
といった対策を取るのが望ましいと思います。
私も不動産会社でのサラリーマン経験がございますので、これらが簡単なようで非常に難しいことは承知しております。
ただ、これらが出来た5人程度の会社では【売る】【買う】を数珠つなぎで続け、一人あたり年間3.5億の売り上げを誇る会社にまで成長することができました。
【設計士】とか【営業】とかの垣根を越えて、お互いに尊重し合える会社・組織ができたとき、自分の持ち場は当然のことながら、それ以上の達成感を味わえるのではないでしょうか。
設計士に【社交性が高い】【人当たりがいい】人はなかなか少ないかと思いますが、時に営業サイドからアプローチをして、設計士が持つ不安や状況を解消してあげてみてください。
【設計士と営業サイドの関係性】を向上することにより、会社の【業績向上】にトライしてみてはいかがでしょうか?